自然

開落

蒲団・重右衛門の最後 著 田山花袋1907年 1902年 発行 雨の点滴、花の開落などいう自然の状態さえ、平凡なる生活をして更に平凡ならしめるような 【開落】かいらく 花が開くこと、落ちること

卑湿

みみずのたはこと 上 著 徳冨健次郎大正2年発表 蛭這い蛇寝床に潜る水国卑湿の地に住まねばならぬとなったら如何であろう 【卑湿】ひしつ/ひしゅう 土地が低くじめじめしていること、さま、そのような土地

天穹

みみずのたはこと 上 著 徳冨健次郎大正2年発表 何の艶もない濁った煙色に化り、見る見る天穹を這い上り 【天穹】てんきゅう 大空。天空

陰森

愛と認識との出発 著 倉田百三1921年 発表 丑の時参りの陰森なる灯の色を思う 【陰森】いんしん ・樹木が生い茂って暗いさま ・薄暗くてもの寂しいさまMMM

臼搗く/舂く

小さき者へ生れ出ずる悩み 著 有島武郎1918年 発表 西に舂きだすと日あしはどんどん歩みを早める 【臼搗く/舂く】うすずく ・穀物などを臼に入れて杵でつく ・夕日がまさに没しようとする

旅雁

小さき者へ生れ出ずる悩み 著 有島武郎1918年 発表 私は一人の病人と頑是ないお前たちとを労わりながら旅雁のように南を指して遁れなければならなくなった 【旅雁】りょがん 遠くへ飛んで行く雁

矮林

あらくれ 著 徳田秋声1915年 発表 しっとりした空気や、広々と夷かな田畠や矮林が、水から離れていた魚族の水に返されたような 【矮林】わいりん 丈の低い木の林MMM

翠嵐

あらくれ 著 徳田秋声1915年 発表 梢からは、烟霧のような翠嵐が起って、細い雨が明い日光に透し視られた 【翠嵐】すいらん 青々とした山のたたずまい

藪畳

あらくれ 著 徳田秋声1915年 発表 藪畳を控えた広い平地にある紙漉場の葭簀に、温かい日がさして 【藪畳】やぶだたみ 一面に茂っている藪

寒暑

もめん随筆 著 森田たま1936年 発表 つまり衣は寒暑をしのげば足り、住は雨露を防げば足るといふのです 【寒暑】かんしょ ・寒さと暑さ。「―の差が激しい」 「―をかまっていられない漁夫たちも(小さき者へ 生れ出ずる悩み)」 ・冬と夏

老杉

きりぎりす 著 太宰治1974年 発行 料亭と旅館を兼ねた家であって、老杉に囲まれ、古びて堂々たる構えであった 【老杉】ろうさん 長い年月を経た杉の木

松籟

きりぎりす 著 太宰治1974年 発行 ここは武蔵野のはずれ、深夜の松籟は、浪の響きに似ています。 【松籟】しょうらい 松の梢に吹く風、またその音

芬々

きりぎりす 著 太宰治1974年 発行 一命すてて創った屍臭ふんぷんのごちそうは、犬も食うまい 【芬々】ふんぷん 盛んににおうさま。本来はよい香りにいう

迷霧

黒死館殺人事件 著 小栗虫太郎1935年 発行 従って、事件はそれなり迷霧に鎖されてしまったのである 【迷霧】めいむ ・方角がわからないほどの深い霧 ・迷いの境地を霧にたとえた語。「―を払う」

冠雪

だから荒野 著 桐野夏生毎日新聞社 2013/9/25 発行 晴れ上がって、冠雪した富士山が驚くほど間近にあった 【冠雪】かんせつ かぶるよう降り積もった雪。また、雪がそのように積もること。「初―」

湧水

花や咲く咲く 著 あさのあつこ実業之日本社 2013/8/15 発行 水が入っていた。裏山の湧水だ。 【湧水】ゆうすい 地中から自然に水がわき出ること、その水。わきみず

啼声

花や咲く咲く 著 あさのあつこ実業之日本社 2013/8/15 発行 そこに、さらに不如帰の啼声が加わった 【啼声】ていせい なきごえ

遡上

金色機械 著 恒川光太郎文芸春秋 2013/10/10 発行 村はずれの川を遡上すると、翡翠色の淵が次々にでてくる。 【遡上】そじょう 流れをさかのぼっていくこと 「彼の肉体を―していく(ピカルディの薔薇)」

帆翔

潮騒 著 三島由紀夫1954年発行 急に空中であとずさりして、帆翔に移ったりした 【帆翔】はんしょう 鳥が翼をひろげたまま風に乗って飛ぶこと

狭窄

潮騒 著 三島由紀夫1954年発行 伊勢海と太平洋をつなぐこの狭窄な海門は、風のある日には 【狭窄】きょうさく すぼまっていて狭いこと、さま。「―な海峡」「視野―」

風致

久生十蘭短篇選 著 久生十蘭 このあたりの自然の風致は、のどかすぎてとるところがないと思っていたが 【風致】ふうち 自然の風景の持つおもむき、味わい。風趣 「りっぱなものではないが、自然の―は十分に具えている(牛肉と馬鈴薯)」

境栽

久生十蘭短篇選 著 久生十蘭 花木に目印をつけながら境栽のほうへ行くと、塀際の薄暗い飼箱のなかに 【境栽】きょうさい 花壇や道路に沿って植えた、低木や園芸植物

険阻

少年十字軍 著 皆川博子 ポプラ社 2013/3/6 発行 細い険阻な道を下りていく 【険阻】けんそ ・地勢のけわしいさま、その場所。険峻(けんしゅん)。「―な上り坂」 「危い―をのぼって(春の雪)」 ・顔つきなどがけわしいこと、さま

咲き初める

烏に単は似合わない 著 阿部智里 文芸春秋 2012/6/25 発行 真っ白い花弁が見て取れた。咲き初めである。 【咲き初める】さきそめる 花が咲きはじめる。「梅が―める」

木の間隠れ

痺れる 著 沼田まほかる 光文社 2010/4/25 発行 ずっと遠くの木の間隠れにTシャツの鮮やかな色がちらつくだけのときもあれば 【木の間隠れ】このまがくれ 木々の間から見え隠れすること。「―に往来が見える」

花首

痺れる 著 沼田まほかる 光文社 2010/4/25 発行 アジサイが八月だというのにまだ色褪せた花首をもたげていた 【花首】はなくび 花を支えている茎の部分

綿羊

痺れる 著 沼田まほかる 光文社 2010/4/25 発行 そのことが大らかな緬羊の匂いになって身体に流れこんでくる 【綿羊/緬羊】めんよう 家畜の羊のこと。特に毛用を指す

狐狸

雪国 著 川端康成 1935年 壁に座敷着のかかっているのなどは、狐狸の棲家のようであった。 【狐狸】こり ・狐と狸。「―妖怪」 ・人をだまし、こそこそ悪事をする者。「―のやから」

群雀

雪国 著 川端康成 1935年 その上の空低く群雀が乱れ飛んだ 【群雀】むらすずめ 群れているスズメ

山峡

雪国 著 川端康成 1935年 山峡は日陰となるのが早く、もうさむざむと夕暮色が垂れていた。 【山峡】さんきょう 山と山の間。谷間。やまあい