2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

追白

小僧の神様 城の崎にて 著 志賀直哉 1917年〜 そして手紙の追白にどうか電話は今後掛けて下さらないようにと書いてあった。 【追白】ついはく 手紙などで、本文の後にさらに書き加える文章。追伸。追って書き

沛然

花物語 著 古屋信子 1916年〜 空は次第に仄暗く、沛然たる雨はやがて、閉め切った車の窓から吹き入って席を濡らすほどであった 【沛然】はいぜん 雨が勢いよく降るさま。「―として驟雨が来る」 「大雨が一しきり―として降り(真珠夫人)」

芳紀

花物語 著 古屋信子 1916年〜 彼女その時、芳紀まさに八歳、尋常の一年生、彼女の声高くあげて助けを訴えたというのは 【芳紀】ほうき 女性の若く美しい年頃 「―二十四歳の画かきのお嬢さん(十蘭レトリカ)」 「―十八歳のたいへんな美女で(嘔吐)」

似気ない

花物語 著 古屋信子 1916年〜 彼女には年頃に似気ない苦労が、その肩に載せられてしまったのだ。寂しい彼女! 【似気無い】にげない ふさわしくない。似つかわしくない

笈を負う

花物語 著 古屋信子 1916年〜 佐伯さんは関西の女子神学校にと、笈を負うて…。このうら若き二人の学業の 【笈を負う】きゅうをおう (蘇秦伝から)勉学のために故郷を離れる

征矢

花物語 著 古屋信子 1916年〜 こんな事を言っているのが真弓の耳に恐しい征矢を射るが如く聞こえた。 【征矢】そや 戦場で使う矢

欣然

花物語 著 古屋信子 1916年〜 クラスの友達は欣然として進級の喜びに華やげる時でした。私は退学すると 【欣然】きんぜん 喜ぶさま。楽しげに物事をするさま 「同類相親しみ、―日々の貧しい生活を(きりぎりす)」

釣鐘に提灯

花物語 著 古屋信子 1916年〜 考えただけで釣鐘に提灯、雲に懸橋、霞に千鳥…及ばぬたかねの花にして村童星を捉えんとして竿をふりまわすの図ですもの…お近付きどころか 【釣鐘に提灯】 (見た目は似ているものの重さは比較にならないことから)つりあいのと…

忍従

花物語 著 古屋信子 1916年〜 横山潮は忍従の子だった。忍従…それは悲しい静かな苦しみである。 【忍従】にんじゅう 耐え忍び、従うこと。「苦境に―する」 「雄アザラシに―しているわけではない(ニシノユキヒコの恋と冒険)」

縁なき衆生は度し難し

花物語 著 古屋信子 1916年〜 酒井さんは縁なき衆生は度しがたしとばかりに吐息をついた 【縁なき衆生は度し難し】えんなきしゅじょうはどしがたし すべてに慈悲を垂れる仏でさえも仏縁のない者は救えないことから、人の忠告に耳を貸さないものは救いようが…

相識

花物語 著 古屋信子 1916年〜 接待を受けた事もあるので、もちろん相識の仲ではあったけれどでもあまりに突然の訪問に思えた 【相識】そうしき 互いに知り合っていること、人。知り合い。「―の間柄」

嫌厭

花物語 著 古屋信子 1916年〜 正しく受入れる前に、何かいとわしい恐怖と嫌厭の感じが私の胸に起きたのです。 【嫌厭】けんえん きらい嫌がること。「蛇蝎のごとく―する」

満艦飾

花物語 著 古屋信子 1916年〜 乗り込んで金屏風の前に満艦飾の我が姿今日を晴れとばかり、席を占められた 【満艦飾】まんかんしょく ・海軍礼式の一つで、祝祭日などの際、軍艦を信号旗や万国旗で飾り立てること ・身なりを盛んに飾り立てたり、物をいっぱい…

雪中の筍

花物語 著 古屋信子 1916年〜 おくらしぶりはどうして廿四孝の雪の中の筍なぞ、朝御飯の前に、ちゃんとお膳立てができるんですから 【雪中の筍】せっちゅうのたけのこ 得がたいものを手に入れることのたとえ。また、孝心が深いことのたとえ

ろうたける

花物語 著 古屋信子 1916年〜 言葉なくして、ただ、ろうたけて見ゆる、その仄かな面影…。 【臈たける】ろうたける ・(女性に対して)洗練された美しさと気品がある 「―た若き夫人の姿は(真珠夫人)」 「十六か七ぐらいの―た令嬢としか見えなかった(瓶詰の…

集く

花物語 著 古屋信子 1916年〜 澄んだ月影を浴びて、そよぐ叢の中に、すだく虫の音のような、寂しい沈んだ哀に、悲しい、 【集く】すだく ・虫などが集まってにぎやかに鳴く 「虫の―きに充ちた芝生」「昼の虫の―きがきこえた」(春の雪) ・群れをなし、集ま…

花明り

花物語 著 古屋信子 1916年〜 花が山のように咲き乱れて、暗をあざむく花明りが灯したようでした 【花明り】はなあかり 桜の花が満開で、夜でもほのかに明るく感じられること。(季)春

病葉

花物語 著 古屋信子 1916年〜 ある社の中に桜の病葉が舞い散る敷石の上を靴を鳴らしてゆくのが嬉しくて、 【病葉】わくらば 病気や虫のために枯れた葉。特に夏の青葉に交じり、赤や黄に変色した葉。(季)夏

幽愁

花物語 著 古屋信子 1916年〜 遠いかなたの水平線に幽愁を漂わせて淡い新月の出る宵などは、私はもの悲しい思いに 【幽愁】ゆうしゅう 深い悲しみや、嘆き

揺籃

花物語 著 古屋信子 1916年〜 この著書こそは、私にとって、生涯への出発点、わが文筆生活の、なつかしき、<揺籃>だったとは。 【揺籃】ようらん ・ゆりかご 「そこがフロオランスの―のある家だ(美しき町・西班牙犬の家 他六篇)」 ・幼児期。また、物事…

疎林

伊豆の踊子 著 川端康成 1926年〜 竹の疎林のような趣があり、殊によく慣れて、食の進まぬ時も、彼の指からならば 【疎林】そりん 木がまばらな林 「―の中を縫うように(真珠夫人)」 「私はその―を透して(或る少女の死まで 他二篇)」

狂奔

伊豆の踊子 著 川端康成 1926年〜 良種へ良種へと狂奔する、動物虐待的な愛護者たちを彼はこの天地の、また人間の悲劇的な象徴として 【狂奔】きょうほん ・狂ったように走り回ること ・目的のため熱心に奔走すること

高雅

伊豆の踊子 著 川端康成 1926年〜 動作も溌剌としていて、まことに可憐ながら、高雅な気品がある。 【高雅】こうが 気高く優雅なこと。上品でみやびやかなこと、さま 「相も変わらず―な団欒で(黒死館殺人事件)」

艱難辛苦

伊豆の踊子 著 川端康成 1926年〜 あらゆる艱難辛苦を費やしても 物干台へ攀じ上るなぞも一例だが、とにかく女中部屋に乗り込まないと眠らない 【艱難辛苦】かんなんしんく 大変な困難や苦労 「きっと、あらゆる―に堪えて(瓶詰の地獄)」 「指導者たるもの…

胸突き

伊豆の踊子 著 川端康成 1926年〜 落葉で辷りそうな胸突き上りの木下路だった。息が苦しいものだから 【胸突き】むなつき 山道の険しく急なところ。「―坂」

苦衷

きもの 著 幸田文 新潮文庫 1996/12/1 発行 それは支離滅裂だった。母の苦衷を訴えているようでもあり、 【苦衷】くちゅう 苦しい心のうち。「―を察する」 「―にはらわたを絞るような志ん朝(こっちへお入り)」 「しかし、領民どもの―を思えば(猫間地獄の…

雅量

きもの 著 幸田文 新潮文庫 1996/12/1 発行 人の訴えを受入れてくれる、雅量のある心なのだと思う。 【雅量】がりょう 人の言動を受入れるおおらかで寛大な性質 「女でさえあれば差し支えなしとの―もある(八軒長屋)」

坐作

きもの 著 幸田文 新潮文庫 1996/12/1 発行 こういうところへ出るとゆう子は、さすがに坐作がきまっていた。 【坐作】ざさ 座ることと立つこと

コンマ以下

きもの 著 幸田文 新潮文庫 1996/12/1 発行 あたし初めてもらったラヴレターが、こんなコンマ以下なんで、とてもがっかりしちゃった 【コンマ以下】 ・小数点以下 ・一般の標準に達していないこと。水準以下 「まだ芸も身体も―の弱虫が(押絵の奇蹟)」

遠々しい

きもの 著 幸田文 新潮文庫 1996/12/1 発行 姉もみつ子もあてにはならない、という遠々しい思いがしみる。 【遠々しい】とおどおしい ・疎遠である ・非常に遠い