2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

古川に水絶えず

きもの 著 幸田文 新潮文庫 1996/12/1 発行 うちは物持ちではないけれども、古川に水絶えずで、世帯が古くなってきているおかげで、なにやらかやら 【古川に水絶えず】 代々栄えた家は没落後もなんとかつづいていけることから、基礎のしっかりしたものは容易…

気嵩

きもの 著 幸田文 新潮文庫 1996/12/1 発行 かわいくない顔つきだった。気嵩な性質が出ている、とおばあさんと母親がなげく欠点 【気嵩】きがさ 勝気、負けん気の強い性質

たまか

きもの 著 幸田文 新潮文庫 1996/12/1 発行 貧乏だったのか、たまかだったのか、とにかくいたみやすい不断着でさえそうなのだから 【たまか】 ・つましく倹約なさま 「その―なるご馳走を喜び合いしが(最暗黒の東京)」 ・細部にまで心を配って物事をするさ…

霏々

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 途中から霏々として降り出した綿のような雪さえも、彼の一徹な意志と情熱とを、ますます燃え上がらせる 【霏々】ひひ ・雪や雨などが絶え間なく降りしきるさま 「その間も雪は―として振りつづく(にぎやかな落葉たち…

狭霧

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 迷わされるのだ。ちょうど深山を行く旅人が、狭霧の中に迷うように。 【狭霧】さぎり 霧。(季)秋。「館を包み始めた―のようなもの」

霖雨

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 六月の末の、降り続いた霖雨が珍しく晴れ渡った或る日であった。 【霖雨】りんう 何日も降り続く雨。ながあめ(文章語) 「―のじめじめしい六月(愛と認識との出発)」

臥像

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 章三郎は昼も夜も大理石の臥像のように仰向いて居る妹の寝息を窺いながら 【臥像】がぞう 横たわった形の像

毒手

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 彼はこの辛辣な病魔の毒手を、誰に訴えて如何なる方法で駆逐す可きか知らなかった 【毒手】どくしゅ ・人を殺害しようとする行為。「―に倒れる」 ・あくどい手段。「―に陥る」

廉恥心

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 劣等な人間であると思い込み、男子としての自尊心や廉恥心までなくしてしまうのであった。 【廉恥心】れんちしん 清らかで恥を知る心

当今

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 当今の学生に珍しい、品行方正の、友情に篤い、頭脳の明晰な男 【当今】とうこん このごろ。現今 「―は鮨も上がりましたからね(小僧の神様)」

陋巷

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 自分が今住んで居る陋巷のあばら屋の周囲にこそ、あらゆる醜悪や陰鬱や悲運が 【陋巷】ろうこう 狭くてむさくるしい町。 「かような―におったって(文鳥・夢十夜・永日小品)」

蒼穹

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 夏らしく晴れ渡った蒼穹には勇ましい南風が充ち充ちて、ところどころに浮遊する 【蒼穹】そうきゅう 青空。大空 「恋を思いながら星に埋った―を仰いだ陳三は(美しき町・西班牙犬の家 他六篇)」

蠢動

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 もくもくとかたまって蠢動している群集の生温かい人いきれが 【蠢動】しゅんどう ・虫などがもぞもぞと動くこと、うごめくこと 「指はそのうち、端から順に―を始め(鏡陥穽)」 ・つまらない力のないものが騒ぎ動く…

騒擾

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 静かにその騒擾を傍観しながら、こっそり身を隠して 【騒擾】そうじょう 集団で騒ぎを引き起こし、社会の秩序を乱すこと。騒乱。擾乱。(文章語)

潺湲

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 渓間の清水が潺湲と苔の上をしたたるような不思議な響きは別世界の物の音のように 【潺湲】せんかん ・さらさらと水が流れるさま。「川の流れは―とし」 ・涙がしきりと流れるさま。「―とあふれ出る涙」

天稟

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 誰も彼も挙って美しからんと努めた揚句は、天稟の体へ絵の具を注ぎ込む迄になった 【天稟】てんぴん 天から授かった資質。生れもって備わった優れた才能。天賦 「道を切り開いて行く―がないのなら(小さき者へ 生れ…

主我

暗夜行路 著 志賀直哉 1921年〜 発行 この寧ろ主我的な心持からも彼は矢張り帰ろうと思った。間もなく俥を云い、寒い風の吹く往来を 【主我】しゅが 自分を第一に考え、他を顧みないこと。利己。「―的な考え」 「不相変―だと非難した者も(みみずのたはこと …

豊頬

暗夜行路 著 志賀直哉 1921年〜 発行 現在彼は同じ鶉の枡に大柄な、豊頬な、然し目尻に小皺の少しある、何となく気を沈ませている彼女を 【豊頬】ほうきょう ふっくらした美しい頬

鼻元思案

暗夜行路 著 志賀直哉 1921年〜 発行 今から思うと、如何にも鼻元思案な話だが、そんならお父さんは 【鼻元思案】はなもとじあん きわめて浅はかな考え、そのさま。喉元思案。鼻元料簡

肉情

暗夜行路 著 志賀直哉 1921年〜 発行 彼は心ではそんな状態に居ながら、一方、急に肉情的になった。 【肉情】にくじょう 異性に対して感じる肉欲。性的な欲望。「―に溺れる」

旅愁

暗夜行路 著 志賀直哉 1921年〜 発行 彼の気持は変に沈んで行った。それは旅愁というような淡い感じのものではなく、もっと 【旅愁】りょしゅう 旅先で感じるわびしい思い。旅の憂い。客愁 「―顔を俄づくりにして(雪国)」

遅疑

暗夜行路 著 志賀直哉 1921年〜 発行 「そうです」とその男は何の遅疑なしに答えた。 【遅疑】ちぎ 疑い迷ってためらうこと。ぐずぐずとしてすぐに決断しないこと 「いささかも―逡巡するところない(暢気眼鏡・虫のいろいろ 他十三篇)」

沼気

暗夜行路 著 志賀直哉 1921年〜 発行 断片的な記憶が、丁度沼水の其処から沼気のぷかりぷかりと浮んで来るように浮んで来た。 【沼気】しょうき 沼などで、有機物が腐敗・発酵して生成される気体。メタンを主成分とする

瀬踏み

暗夜行路 著 志賀直哉 1921年〜 発行 「曖昧な態度で瀬踏をしてる」と謙作は笑った。 【瀬踏み】せぶみ ・川を渡るさい、足を踏み入れるなどして、あらかじめ深さを調べること ・物事を始める前に、ちょっと試してみること。「交渉に先立ち―しておこう」

推讃

暗夜行路 著 志賀直哉 1921年〜 発行 阪口が山口に自分のものを推讃したというのが若し本統なら、それはどういう気持ちからだろう 【推讃】すいさん 褒め、勧めること。推賞。「良い品だと―する」

曙光

暗夜行路 著 志賀直哉 1921年〜 発行 雨後の美しい曙光が東から徐々に涌き上がって来るのを見ると、十年ほど前 【曙光】しょこう ・夜明け方、東の空に見えてくる太陽の光。暁光 ・状況下に現れだした明るい兆し

拘泥

暗夜行路 著 志賀直哉 1921年〜 発行 彼は一寸拘泥したが、拘泥するだけ変だとも思い返して、再び電気をつけて二階を降りて行った 【拘泥】こうでい こだわること。必要以上に気にしてとらわれること。「小さなことに―する」 「重力による―を一時忘れ(凶笑…

徒食

愛の鬼才 著 三浦綾子 新潮社 1983/3 発行 どこの人とも素性不明の徒食の人が時々現れたり消えたりもしました。 【徒食】としょく 働かず、ぶらぶら遊び暮らすこと。座食。居食い。「無為―」「遺産で―する」 「無為―の島村は(雪国)」 「十分―出来るだけの…

蛮声

愛の鬼才 著 三浦綾子 新潮社 1983/3 発行 堂々たる体躯もなければ蛮声もなかった。 【蛮声】ばんせい 野蛮な声。下品な大声

仄聞

愛の鬼才 著 三浦綾子 新潮社 1983/3 発行 いろいろ仄聞するに、非常に熱意のある先生が活躍され、 【仄聞】そくぶん ちらりと耳に入ること。噂などで聞くこと。「―したところでは」 「―するところでは(桑潟幸一准教授〜)」 「―するところによれば(ドグラ…