2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

黙過

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 咎めたり邪魔したりしないで、黙過してくれるのだろうか? 【黙過】もっか 知りながら、黙って見過ごすこと。「―しがたいミス」 「花にまで累がおよぶのを―はできない(夜の淵をひと廻り)」

おのがじし

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 打ち捨てられながら、おのがじし未来を夢みているように見えたからだ。 【己が自】おのがじし それぞれに、めいめいに 「じつは彼らは―、この女そのものに(うつろ舟)」

あたら夜

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 あんなに美しく聴かれたのは、月のあたら夜の背景もさることながら 【可惜夜】あたらよ 明けてしまうのが惜しい夜

亭々

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 広大な公園で、松はいずれも亭々と伸び、かなり高くまで葉をつけて 【亭々】ていてい ・樹木などが、まっすぐに高くそびえているさま 「―たる森がちっぽけな雑木林に見えたり(十蘭レトリカ)」 ・はるかに遠いさまMMM

憫笑

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 柏木は憫笑するように私を見た。 【憫笑】びんしょう あわれんで笑うこと。あわれみのこもった笑い 「「マア、とんでもない誤算ですわ」と鎮子は―を湛えて(黒死館殺人事件)」

面伏せ

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 私のすべての面伏せな感情、すべての邪まな心は、彼の言葉で以って陶冶されて 【面伏せ】おもてぶせ/おもぶせ 顔をあげられないほど恥ずかしいこと。不名誉。「―な気持ちで向かい合う」 「相談するにはあまりに―な事柄(春…

爪繰る

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 信心の深い寡婦は、数珠を爪ぐり、じっと俺の目を見つめてきいていた。 【爪繰る】つまぐる 爪先・指先で操ること

奇貨居くべし

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 女の打明けに対して、奇貨居くべしという気になって、 【奇貨居くべし】きかおくべし ・珍しい品物だから今買えば、後に大きな利益を上げるだろう ・得がたい好機は逃さずに利用すべきだ

弁疏

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 私とて、弁疏の余地がないわけではない 【弁疏】べんそ 言い訳をすること。言い訳。弁解。「心で―した」 「半ば自分に―しなくては気になるので(愛と認識との出発)」 「入市の―はこれでまず十分だ(十蘭レトリカ)」 「疑…

仏倒し

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 女は仏倒しに雪の上に仰向けに倒れた。 【仏倒し】ほとけだおし 仏像のように、直立の姿勢のまま倒れること

満目

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 石川五右衛門がその楼上の欄干に足をかけて、満目の花を賞美したというのは、多分この山門だった 【満目】まんもく 見渡す限り。目に見える限り

残んの

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 鐘楼をめぐって残んの花をつけた梅林があった。 【残んの】のこんの まだ残っている。「―月」「―雪」

澄明

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 裏切りの澄明な美しさは私を酔わせた。 【澄明】ちょうめい 澄みきっていて明るいこと、さま。「―な空」「声が―だ」 「青年の日の―は失われ(潮騒)」

鶏鳴

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 薮蚊が私の足を刺した。おちこちに雞鳴が起こった。 【鶏鳴】けいめい ・鶏が鳴くこと、その声 ・一番どりの鳴く頃。夜明け

暁闇

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 暗いうちから床を抜け出し、運動靴を穿いて、夏の暁闇の戸外へ出た。 【暁闇】ぎょうあん/あかつきやみ ・明け方前に、月がなくて辺りが暗いこと ・夜明け方の、ほの明るい闇 「窓の外は紫紺の―(春の雪)」

権柄ずく

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 家が物持ちのせいもあるが、権柄ずくな態度を取る。 【権柄尽く】けんぺいずく 権力にものをいわせ、強引に事を行うこと、さま 「逃げ口上とばかりおもって―で押し出すのが常(銀の匙)」

花圃

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 アネモネ、雛罌粟、などが斜面の花圃に咲きそろっていた。 【花圃】かほ 花畑。花園。(季)秋

膝下

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 私は父母の膝下を離れ、父の故郷の叔父の家に預けられ、そこから東舞鶴中学校へ徒歩で通った 【膝下】しっか ・ひざの下。ひざもと ・保護者のもと 「無事に母親の―で育って(ドグラ・マグラ)」 ・書面で、父母などの宛名…

まったき

月と雷 著 角田光代 中央公論新社 2012/7/10 発行 良きことをしている、まったきことをしている、すこやかなことをしている、と。 【まったき】 完全で欠けたところがないこと 「―無になれないので(少女外道)」 「三人で完了する―家族に見える(水声)」 …

塗炭の苦しみ

自由恋愛 著 今井志麻子 中央公論新社 2002/2/25 発行 私とは比べ物にならないほど、塗炭の苦しみに喘いでいる人々は、こうしている今も何十万といる 【塗炭の苦しみ】とたんのくるしみ 泥や火の中にいるような、ひどく激しい苦しみ。「―をなめる」 「長い間…

嫁する

自由恋愛 著 今井志麻子 中央公論新社 2002/2/25 発行 一度は嫁した身の上、生娘でもありません。 【嫁する】かする ・嫁に行く。嫁ぐ 「医家に―女の条件とでもいうべきもの(華岡青洲の妻)」 ・嫁にやる。嫁がせる。 ・責任や罪などを他人に押し付ける。責…

膂力

自由恋愛 著 今井志麻子 中央公論新社 2002/2/25 発行 私を引きはがそうとした清子さんのお父様の、恐ろしい膂力も。私は覚えている。 【膂力】りょりょく 筋力。腕の力 「一目で―の凄まじさが(金色機械)」 「小さな猿の―で(猫間地獄のわらべ歌)」

深奥

自由恋愛 著 今井志麻子 中央公論新社 2002/2/25 発行 ついぞ感じることのなかった何かが、体の深奥からゆっくりと沁みだしてきていた。 【深奥】しんおう 大変奥深いこと、場所、さま。深遠。「―に足を踏み入れる」 「医の―を極めたとは云えんのや(華岡青…

緑陰

自由恋愛 著 今井志麻子 中央公論新社 2002/2/25 発行 私は緑陰の向こうに夫の背中が見えなくなるまで見送った。 【緑陰】りょくいん 木立の青葉が茂ってできるかげ。こかげ。(季)夏×

八幡の藪知らず

孤島の鬼 著 江戸川乱歩 1929年〜 枝道だ。案の定八幡の藪不知だよ。だが、しるべの縄をにぎってさえいれば 【八幡の藪知らず】 足を踏み入れたら二度と出てこられなくなるといわれる森の通称。千葉県にある

鹿島立ち

孤島の鬼 著 江戸川乱歩 1929年〜 南海の一孤島を目ざして、いとも不思議な鹿島立ちをやったのである 【鹿島立ち】かしまだち 旅に出発すること。旅立ち。門出。出立

伏在

孤島の鬼 著 江戸川乱歩 1929年〜 世界中の誰もが考えなかった程の、恐ろしい秘密が伏在しているんだよ 【伏在】ふくざい 事情などが表面に表れないで、隠れて存在していること。潜在 「因縁が―しておる(ドグラ・マグラ)」 「伸子の体内に―している(黒死…

閑却

孤島の鬼 著 江戸川乱歩 1929年〜 あからさまな場所は、犯罪などの真剣な場合には、却って閑却され気附かれぬもの 【閑却】かんきゃく なおざりにすること。いい加減にほうっておくこと。「案件を―する」 「古い麦藁帽子が自然と―されるようになった(こころ…

理外の理

孤島の鬼 著 江戸川乱歩 1929年〜 この二つの理外の理を見ては、何かしら怪談めいた恐怖をさえ感じないではいられなかった。 【理外の理】りがいのり 一般の道理や常識では説明のつかない、不思議な道理。普通の道理を外れていること

細叙

孤島の鬼 著 江戸川乱歩 1929年〜 極まり切っていることだから、細叙を省くけれど、何しろ日曜日の海水浴場での出来事だったから 【細叙】さいじょ 詳しく、詳細に書き記すこと 「―の必要があると思う(黒死館殺人事件)」