物の名

文辞

蒲団・重右衛門の最後 著 田山花袋1907年 1902年 発行 幾らか罵倒的の文辞をも陳べて、これならもう愛想をつかして断念めて了うであろうと 【文辞】ぶんじ 文章。また、文章の言葉

水屑

みみずのたはこと 上 著 徳冨健次郎大正2年発表 気が変になり、帰国の船中太平洋の水屑になられたと聞いて居る 【水屑】みくず 水中のゴミ。「―となる(=水死する)」

兵戈

みみずのたはこと 上 著 徳冨健次郎大正2年発表 彼の郷里の熊本は兵戈の中心となったので、家を挙げて田舎に避難したが 【兵戈】へいか ・槍や刀やほこ。転じて、武器 ・戦争。いくさ

残肴

何処へ・入江のほとり 著 正宗白鳥明治40年〜 障子を開けると、残肴を囲んで四人がばらばらに坐っている 【残肴】ざんこう 食べ残した肴。酒宴の残り物

余瀝

何処へ・入江のほとり 著 正宗白鳥明治40年〜 矢張り酒という奴あ味いもんだ。」と、余瀝を舐めて、畳の上に置いた 【余瀝】よれき 器の底に残った酒や汁などのしずくAAA

禿筆

何処へ・入江のほとり 著 正宗白鳥明治40年〜 鉄亜鈴で鍛えた手に禿筆(ちびふで)を握って、死灰の文字をほじくって 【禿筆/禿び筆】とくひつ/ちびふで 穂先のすり切れた筆。ちびた筆 「これを無遠慮なる一本の―に掻き廻せば(八軒長屋)」

諧調

猫町 他十七篇 著 萩原朔太郎 往来で立話をしている人たちも、皆が行儀よく、諧調のとれた低い静かな声で話をしていた 【諧調】かいちょう 調和のよくとれた音、調子。全体がしっくり溶け合った調子

人馬

猫町 他十七篇 著 萩原朔太郎 そして最後に、漸く人馬の足跡のはっきりついた、一つの細い山道を発見した 【人馬】じんば ・人と馬 ・腰から上が人間、下が馬という架空の動物

木香

あらくれ 著 徳田秋声1915年 発表 木組などの繊細いその家は、まだ木香のとれないくらいの新建であった 【木香】きが ・木材の香り ・酒に移った樽の香り

熟柿

きりぎりす 著 太宰治1974年 発行 ちっとも可愛くないばかりか、いよいよ熟柿がぐしゃっと潰れたみたいに滑稽で 【熟柿】じゅくし よく熟した柔らかいカキの実 「彼れは顔を―のようにして(何処へ・入江のほとり)」 「村娘は―で甘い干し柿を作るのが上手(…

破船

黒死館殺人事件 著 小栗虫太郎1935年 発行 病理的な情熱の破船状態だと云います 【破船】はせん 難破船

塁壁

黒死館殺人事件 著 小栗虫太郎1935年 発行 熊城の作り上げた人間の塁壁が、第一どうなってしまうのであろう 【塁壁】るいへき とりでの壁。また、とりで 「黄土色の―と建物が、入り江を囲んでそびえ立つ(これは王国のかぎ)」

光背

黒死館殺人事件 著 小栗虫太郎1935年 発行 四角の光背と目前の死者との関係を、どう云う意味でお考えになりますか? 【光背】こうはい 仏身から発する後光を表したもの 「於継の姿に瑠璃色の―を感じた(華岡青洲の妻)」

戯文

黒死館殺人事件 著 小栗虫太郎1935年 発行 と題した田島象二の戯文だった 【戯文】ぎぶん たわむれに書いた文。滑稽な味わいの文

貴石

だから荒野 著 桐野夏生毎日新聞社 2013/9/25 発行 若い女が好みそうな小さな貴石が入った細い指輪や 【貴石】きせき 宝石。また、そのうち希少性のあるもの。ダイヤ・ルビー・サファイアなど

刀剣

金色機械 著 恒川光太郎文芸春秋 2013/10/10 発行 時としてとても危険で、刀剣に等しきもの 【刀剣】とうけん 刀や剣の総称

遺愛

春の雪 著 三島由紀夫 1965年発行 先代の遺愛の漢籍もゆたかなだけに、この邸うちでもっとも神聖な部屋になっていた 【遺愛】いあい 故人が生前に愛用していたもの

万巻

春の雪 著 三島由紀夫 1965年発行 本を読みすぎるわけでもないのに、万巻の書を読み疲れたような顔を 【万巻】ばんかん 多くの書物、巻物。「―の書」 「博士みたいに、まさか、―の書を読んだわけでは(きりぎりす)」 「與次郎が遺した―の書物を(本にだって…

鬼魅

久生十蘭短篇選 著 久生十蘭 平安朝の中期は、竜や、狐狸の妖異や、鳥の面をした異形の鬼魅、そのほか外道頭か青女とか、そういった怪物が横行闊歩する天狗魔道界の全盛時代で 【鬼魅】きみ 鬼と化け物。妖怪変化

緒言

文鳥・夢十夜・永日小品 著 夏目漱石 この序文を見ろと言ってハムレットへ付けた緒言を読まされたことがある。 【緒言】しょげん/ちょげん ・論説の糸口 ・まえがき。序文

篆刻

文鳥・夢十夜・永日小品 著 夏目漱石 篆刻が旨いということも話した。お祖母さんはさる大名のお屋敷に奉公していた 【篆刻】てんこく 石や木などの印材に字を刻むこと。印章を作成する行為

漬け菜

文鳥・夢十夜・永日小品 著 夏目漱石 それから漬け菜に塩を振って樽へ詰め込む所である 【漬け菜】つけな 漬け物用の葉菜。または、漬け物にした菜

杖柱

ドグラ・マグラ 著 夢野久作 1935年 発行 お前一人が杖柱…などと夢うつつに申しておりますそうで、 【杖柱】つえばしら 杖と柱。もっとも頼りにするもののたとえ 「われわれが杖とも柱とも頼んだ巴屋さんが(壺中の回廊)」 「ゆくゆくは杖とも柱ともなって…

香華

ドグラ・マグラ 著 夢野久作 1935年 発行 りっぱな墓の下に葬られて、香華を手向けられているわけであります 【香華】こうげ 仏前用の香と花。華香。こうばな 「朝々に―を供えるために来る(美しき町・西班牙犬の家 他六篇)」 「村の者がをりをり―を手向け…

玲瓏

ドグラ・マグラ(上) 著 夢野久作 1935年 発行 一点の曇りもない、玲瓏玉のような少女の全身を、残る隈なく検査して 【玲瓏】れいろう ・玉などが透き通って美しいさま、玉のように輝くさま ・玉尚のふれあって美しく鳴るさま、音声が澄んで響くさま

漫文

ドグラ・マグラ(上) 著 夢野久作 1935年 発行 翻弄するために書いた無意味な漫文とも考えられるという 【漫文】まんぶん ・思いつくままに書いた、とりとめのない文章 ・滑稽味のあるくだけた文章

蝋涙

少年十字軍 著 皆川博子 ポプラ社 2013/3/6 発行 したたり落ちた蝋涙がうずたかい 【蝋涙】ろうるい ともした蝋燭から溶けて流れた蝋をいう 「燃え尽きて―のこぼれ伝うた銀の燭台が(美しき町・西班牙犬の家 他六篇)」

キャプリーヌ

ガソリン生活 著 伊坂幸太郎 朝日新聞出版 2013/3/30 発行 天然草で編んだようなキャプリーヌは彼女がよく頭に載せて 【キャプリーヌ】 婦人帽の一種。頭部が丸みを帯びている、幅広で柔らかい帽子

バラ線

なにごともなく、晴天。 著 吉田篤弘 毎日新聞社 2013/2/25 発行 これって、子供のときにバラ線で引っかいて、ちょっと血が 【バラ線】 有刺鉄線の俗称

万有

黄色い水着の謎 著 奥泉光 文芸春秋 2012/9/25 発行 いよいよ白銀の溶鉱炉と変じ、地上の万有を焦がしている。 【万有】ばんゆう 宇宙に存在する全ての物。万物