季節・天候

春寒

文鳥・夢十夜・永日小品 著 夏目漱石 この淋しい京を、春寒の宵に、疾く走る汽車から会釈なく振り落された余は 【春寒】はるさむ/しゅんかん 立春が過ぎてもぶり返す寒さ。余寒(よかん)。(季)春

三竿

ドグラ・マグラ 著 夢野久作 1935年 発行 またも熟睡に陥り、日三竿に及びて蹶起して、今日はただ一回の呼び声にて覚醒 【三竿】さんかん 太陽や月が空高く昇ること

遠雷

少年十字軍 著 皆川博子 ポプラ社 2013/3/6 発行 少しの間をおいて、遠雷を聞いた。 【遠雷】えんらい 遠方で鳴る雷。(季)夏

薫風

烏に単は似合わない 著 阿部智里 文芸春秋 2012/6/25 発行 体を薫風に包み込まれるような心地になった時 【薫風】くんぷう 初夏、新緑の間を吹いてくる心地よい風。(季)夏

油照り

痺れる 著 沼田まほかる 光文社 2010/4/25 発行 油照りの暑い日で、蝉が鳴きしきり 【油照り】あぶらでり 風がなく、薄日が照りつけて、油汗がにじむような天気。(季)夏

旗雲

少女外道 著 皆川博子 文芸春秋 2010/5/30 発行 夕旗雲の切れ目から射す茜色の光が、葉次の影を細く細く地上に描き残していた 【旗雲】はたぐも 旗がたなびいているように見える雲

夕間暮れ

桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活 著 奥泉光 2011/5/15 発行 子供時分の夕まぐれ、人殺しのあった近所の空き地で 【夕間暮れ】ゆうまぐれ 夕方の薄暗いこと、その時分。夕暮れ

松の内

ゼラニウムの庭 著 大島真寿美 ポプラ社 2012/9/15 発行 ちょうど十年前(平成二年)のことだ。元旦の夜に倒れ、松の内に息を引き取った。 【松の内】まつのうち 正月の松飾りをたてておく期間。元旦から7日、もしくは15日まで。注連(しめ)の内 「そう。―…

霏々

刺青・秘密 著 谷崎潤一郎 1910年〜 発行 途中から霏々として降り出した綿のような雪さえも、彼の一徹な意志と情熱とを、ますます燃え上がらせる 【霏々】ひひ ・雪や雨などが絶え間なく降りしきるさま 「その間も雪は―として振りつづく(にぎやかな落葉たち…

曙光

暗夜行路 著 志賀直哉 1921年〜 発行 雨後の美しい曙光が東から徐々に涌き上がって来るのを見ると、十年ほど前 【曙光】しょこう ・夜明け方、東の空に見えてくる太陽の光。暁光 ・状況下に現れだした明るい兆し

深更

紀ノ川 著 有吉佐和子 1959年 発行 その深更から朝にかけて、紀ノ川は氾濫して川沿いの部落を荒らしまわった。 【深更】しんこう 夜更け。真夜中。深夜。「会合が―に及ぶ」 「連絡が入ったのは―。(先導者)」 「―、私の寝床は(少女外道)」 「この―になり…

錦秋

南下せよと彼女は言う: 旅先の七つの物語 著 有吉玉青 小学館 2012/7/11発行 錦秋の中で、紗英子は軽く失望した。 【錦秋】きんしゅう 紅葉が錦の織物のように色鮮やかで美しい秋

しののめ

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 しののめの仄白い砂利道の上に私と箒が動いている 【東雲】しののめ 東の空明るくなってきたころ。夜明け。あけぼの

あたら夜

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 あんなに美しく聴かれたのは、月のあたら夜の背景もさることながら 【可惜夜】あたらよ 明けてしまうのが惜しい夜

暁闇

金閣寺 著 三島由紀夫 1956年発行 暗いうちから床を抜け出し、運動靴を穿いて、夏の暁闇の戸外へ出た。 【暁闇】ぎょうあん/あかつきやみ ・明け方前に、月がなくて辺りが暗いこと ・夜明け方の、ほの明るい闇 「窓の外は紫紺の―(春の雪)」

氷雨

倒立する塔の殺人 著 皆川博子 理論社 2007/11 発行 翌日は、氷雨が降りしきっていた。 【氷雨】ひさめ ・空から降り落ちる氷の粒。ヒョウやあられ。(季)夏 ・冷たい雨。みぞれ(季)冬

木の芽時

祝山 著 加門七海 光文社文庫 2007/9/20 発行 木の芽時の通説どおり、おかしな人も結構、見かける 【木の芽時】このめどき 木々が新芽を吹く頃。早春。(季)春

しのつく

七夜物語 著 川上弘美 朝日新聞出版 2012/5/30 発行 その日も朝から、しのつく雨が降っていた。 【篠突く】しのつく 篠竹を束ねたものが落ちてくるように、細いものが密に激しく飛んでくる。激しく雨が降るさまをいう 「光がとだえて、―雨が降り出した(うつ…

温気

屍の王 著:牧野修 ぶんか社(角川ホラー文庫) 1998/12 発行 雑巾のようなにおいがした。むっと温気が押し寄せる。 【温気】うんき/おんき 暑さ、特に蒸し暑さ。暖気「―に蒸される」

早暁

悦楽園 著 皆川博子 出版芸術社 1994/9/20 発行 靄で閉ざされた早暁の森は、何か非現実的なもののようにさえ思え 【早暁】そうぎょう 明け方。払暁(ふつぎょう) 「―を期して入江へ突入するつもりらしく(十蘭レトリカ)」 「霧深い―の密林に(本にだって雄…

流星雨

蛇を踏む 著 川上弘美 文芸春秋 1996/8 発行 流星雨のように、夜の塊は降りそそいでくる。 【流星雨】りゅうせいう 流星群よりも流星の出現数が多い現象。星雨(せいう)

おぐらい

蛇を踏む 著 川上弘美 文芸春秋 1996/8 発行 家の中はおぐらくなる。おぐらい家の中でヒロ子さんの家族は 【小暗い】 薄暗い。少し暗い。「―道」

天心

檸檬 著 梶井基次郎 1925年 発行 天心をやや外れた月が私の歩いて行く砂の上にも一尺ほどの影を作っていました。 【天心】てんしん 空の真ん中。中天 「東に、西に、―に、ず、ずうと広がって来た(みみずのたはこと 上)」

薄暮

檸檬 著 梶井基次郎 1925年 発行 薄暮の空に、時どき、数里離れた市で花火をあげるのが見えた 【薄暮】はくぼ 夕暮れ。日暮れ 「わびしい―を苦い顔をして(蒲団・重右衛門の最後)」

驟雨

檸檬 著 梶井基次郎 1925年 発行 店頭に点けられたいくつもの電灯が驟雨のように浴びせかける絢爛は 【驟雨】しゅうう にわか雨。通り雨。村雨。短時間で降り止む雨 「きまって山を襲う―の時間(久生十蘭短篇選)」 「昼過ぎにまた強い―があった(営繕かるか…

はだら

恋の都 著 三島由紀夫 1953年発行 まだそこかしこに残雪がはだらに光っている日の午後 【はだら】 ・雪などが不規則に濃淡になっているさま。まだら 「松影が―に落ちている(潮騒)」 「私は川岸の―に消えかかった道を行った(或る少女の死まで 他二篇)」 …

涼風

気分上々 著 森絵都 角川書店 2012/2/28 発行 その涼風に当たったとたんに頭が冷えた 【涼風】すずかぜ/りょうふう すずしい風

月影

気分上々 著 森絵都 角川書店 2012/2/28 発行 川面に揺れる月影を眼下に小声で言葉を交わし、 【月影】つきかげ ・月の形 ・月のあかり

暮色

虚無への供物 著 塔晶夫 1964年 発行 ようやく淡い暮色の迫ろうとするころ、 【暮色】ぼしょく 夕暮れの薄暗い色。暮れかかったようす

黄塵

虚無への供物 著 塔晶夫 1964年 発行 うすら雨や黄塵の日や、白く冴えた曇り日などの移り変わるうちに 【黄塵】こうじん ・空が黄色く見えるほどに激しい土ぼこり。(季)春 ・世の中のわずらわしさ。「―にまみれる」